こちらは、シャドーキルトの「リンネソウ」です。
これもスウェーデンのスモーランド地方の花で、リネアといって、植物学者のカール・フォン・リンネの名前が由来です。
同じ対象でも長いこと考えて、いくつもパターンを作って、完成したものよりずっとたくさんの試作をしていました。
最後となった作品展に向けて準備をしている時に、どちらを展示しようかしらと、ふたつあるリンネソウの額を比べて悩んでいました。
好きな花で、どちらの作品もさりげなく仕上がっていて選び難かったようですが、結局わかりやすいかもねと、「続 私の針仕事ノート」(P.67)に載せた方を選んでいました。
でも、この写真のリンネソウの方がお気に入りだった気がします。
「ほら、花の縁にちょっと別のピンクの布やむら染めの糸を使ったり、茎の具合がいい感じでしょう…」と、うっとり語って、あの花の繊細さをよりいっそう表現できて満足しているようでした。
だからなんとなく公開しないで、下向きに静かに咲いている野原にそのままおいていたのかもしれません。
本にも書いてありますが、スウェーデンの山のトレッキングは、そんな静かな旅ではありませんでした。
強い日差しと冷たい風の中を“リンネの道”を辿ってひたすら歩き、ノルウェー側に渡るときは道を見失い、「誰にも見られていないよね?」と有刺鉄線の国境線をくぐり抜けて…。
笑いながら文句を言ってばかりの1995年の夏でした。
スウェーデン側に戻るときは、ちゃんと国境にかかる橋を渡りましたよ。